昔からプールやジムに通ってはいました。
外来リハビリを行っていると患者さんから日頃からジムやプールには通っているという情報を得ることがあります。
今までは「運動習慣がある」程度にしか考えていませんでした。
しかし、ある時に気付いたのです。
ジムやプールでの運動を専門家である理学療法士が指導することでリハビリ終了後も適切な運動方法と運動量の維持ができるのではと考えました。
そこで、今回は水中ウォーキングについてまとめてみました。
この記事を読むことで水中ウォーキングへの知識がつき、アドバイスが出来るようになります。
手っ取り早く知りたい人は目次の「水中ウォーキング練習」から飛んでください。
それではどうぞ!
普通のウォーキングとの違いは?(水の特性)
水中ウォーキングは普通のウォーキングとは何が違うのかを知っておきましょう。
主な特徴として
- 浮力
- 水圧
- 水温
- 抵抗
など、水の特性が違いを生み出しています。
浮力
人(物)は水の中に入ることで浮力を得ることができ、重力からの負荷が減ることで体が軽くなります。
人の場合は関節や筋肉に掛かる負荷が軽くなるということです。
水圧
水圧を受けることで血管や筋肉が圧縮され、全身から心臓に血液を戻す作用を助けることが出来ます。
水深が深いほど水圧が大きくなり、深さが10m増すごとに約1気圧上昇します。
水温
プールの水温は人の体温より低いため、水の中に入ると体温が失われていきます。
体温の低下を防ごうとして、血管を収縮させたり、心臓の動きを活発したりするといった機能を働かせます。
その結果、新陳代謝が高まり、エネルギーをより多く消費するようになるのです。
抵抗
水は、空気に比べて約800倍もの密度を持っています。
つまり、水中で身体を動かすためには地上にいるときよりも強い力と多くのエネルギーを使う必要があります。
水中で鍛えたい部位を動かして負荷をかけることで効率的なトレーニングができるということです。
水中ウォーキングのメリット
上記で挙げた水の特性を活かしたウォーキングのメリットとは何でしょう。
私は以下の3つを考えます。
①関節に負担がかからない
当たり前ですが、大きな特徴ですね。
水中では浮力が発生して関節や筋肉の負担が減ります。
膝や腰に痛みが出ている人も浮力によって関節への負担が軽減すれば運動が出来るようになります。
痛みのない状況で関節運動をすることで正常な筋の収縮ができたり、可動域を保つことが出来ます。
②運動強度が高い
水中ウォーキングは地上のウォーキングと比べ運動強度が高いです。
運動強度が高いということはカロリー消費が大きいということになります。
運動強度の単位を「METs(メッツ)」と呼びます。
安静座位を1とした時と比べて何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したものです。
普通に歩くことは3METsに相当します。
ちなみに水泳は方法にもよりますが6~8METsです。
水中ウォーキングは2.5~4.5METsに相当します。
METsについて調べたい場合は「厚生労働省 METs」で検索してみてください。
そのため、地上のウォーキングと比べ短時間でカロリー消費ができるのです。
③達成感が得られる
心理的側面から1つ挙げると、達成感が得られるということです。
達成感があると「また次もやりたい」と継続する気持ちが生じます。
また普通のウォーキングと比べ、「プールの施設に行く」、「水着に着替える」という行動が増えます。
そのため、散歩に近いようなウォーキングよりも運動に集中することができるのです。
そして、行動が増えたことと、集中したことで達成感を得られるようになるのです。
注意点
運動をする際の注意点をあげます。
とくに脱水症状は気づきにくいため、注意しましょう。
脱水症状
プールは湿度が高いため、喉の渇きを感じにくいのです。
しかし、水中での運動も地上と同じように汗をかくため、身体の中の水分は失われていきます。
そのため、こまめな水分補給を行い、予防をしましょう。
低体温症
水温は体温より低いため夏のプールなどでは心地よく感じると思います。
体温の低下を防ぐために代謝機能が働き維持しますが、長時間も水中にいるとカロリー不足や疲労により、代謝機能も低下する場合があります。
体温が維持できなくなると低体温になってしまいます。
疲労を考慮に入れながら、休憩を入れましょう。
水中ウォーキング練習
どんな練習を指導するかというと地上で行う歩行練習と同じ内容です。
しかし、水の特性を利用することによって地上では大変な場合も楽に動かせます。
少し専門的な表現で解説も入れて4つ考えてみました。
もも上げ歩き
1つ目はもも上げ歩きです。
これは太ももを持ち上げる筋肉である股関節屈筋群を鍛えられます。
地上だと足が重くて身体を反らしてあげてしまいやすく、上手に股関節屈筋群を使えないことがあります。
水中では浮力で重さを支える負担が減るため歩き方や姿勢の意識さえすれば的確に鍛えることが出来ます。
股関節屈筋群の中でも腸腰筋の筋力が特に大切です。
腸骨筋は腸骨稜で腰方形筋を介して腰椎へ付着。大腰筋・小腰筋は腰椎へ付着しています。
そのため、腰椎が伸展してしまうと腸腰筋の起始・停止間が離れてしまい働きにくくなってしまいます。
また体幹が前傾位で腰椎が屈曲位だと腸腰筋の起始・停止間が近くなってしまい収縮できなくなってしまいます。
そのため、体幹が安定していないと腸腰筋の収縮は得られにくくなります。
体幹がふらつかないようにし、太ももの付け根から足を持ち上げるよう心掛けて行うことで的確に鍛えることが出来ます。
大股歩き
次に大股歩きです。
大股歩きは方法によっては腸腰筋も鍛えることが出来ますが、私が狙うポイントは股関節の可動域です。
臀部の筋肉が大事だと色々なところで聞かれますし、たしかに大事です。
しかし、使える可動域がなければ意味はないのです。
可動域を使うことで筋肉の収縮がしっかりと行え、筋力維持になります。
そのため、普段よりも少し大股で歩くことで股関節を動かしていこうというトレーニングです。
地上では大股で歩くことはバランスが必要であり、転倒の恐怖心が伴いやすいです。
水中では浮力や抵抗で動作が楽に、ゆっくり行えるようになるため、恐怖心なく行えるのです。
歩行時の必要な股関節の伸展可動域は20°と言われおり、立脚後期(Tst)に必要です。
年をとると運動不足による筋力低下や生活習慣などの影響で股関節の可動域が減少しやすくなります。
股関節の可動域が減少すると歩行をするときに骨盤や脊柱での伸展・回旋運動の代償や立脚後期をしない歩行をしてしまいます。
後ろ歩き
後ろ歩きは日常生活でほとんどすることのない動きです。
そしてバランス能力が必要であり、難易度の高い動作です。
バランスが必要な主な理由は視覚情報が得られないため、自分の足の感覚だけで身体を支えなければならないからです。
水中ウォーキング練習として後ろ歩きをすれば運動の効果は変わらないですが、浮力と抵抗で難易度が低くなります。
視覚情報の遮断により体性感覚でのバランス保持が必要になるため、バランス練習となります。
後ろに足を振り出し、重心を移動させる動作なため、大臀筋やハムストリングスの股関節伸展筋を鍛えることが出来ます。
立脚初期はつま先から接地することになり下腿の筋力も鍛えることができます。
ジャンプ
ラジオ体操でジャンプは出来ないという人も耳にします。
ジャンプした後に膝や腰が痛くなるかもしれません。
その時は水中でジャンプするのがおすすめです。
ジャンプは飛び上がるため、下肢の筋力を鍛えられますが、もう一つの狙いは着地です。
着地時に身体が倒れないように衝撃吸収とバランスをとる必要があるのです。
浮力により体重が軽減されていますので関節の負荷は減りますが、水圧により沈んでからジャンプすれば筋力を上げることが出来ます。
ジャンプ時の体幹・下肢筋力は求心性収縮が主に鍛えられます。
着地時の場合は衝撃分散や、身体が崩れないようにバランスをとることで下肢・体幹筋の等尺性収縮もしくは遠心性収縮を鍛えることが出来ます。
終わりに
いかがだったでしょうか。
プールでただウォーキングしているだけだった人は少し意識を変えてみてください。
今まで動かさなかった部位が動いて疲れるかもしれませんね。
リハビリに来た人がプールに行っているという情報が得られたなら、是非トレーニングを指導してあげてください。
以上、「理学療法士の私が考える水中ウォーキング」でした。