・片足立ちの動作分析が分からない
・どこがポイントなのか分からない
・片足立ちを評価して何が分かるの?
こんな悩みを抱えたことはありませんか?
その問題を解決できる記事を用意しました。
都内整形クリニックで働いているあおかずです。
過去には回復期リハビリテーションでも働いていました。
臨床ではバランスを評価する時に片足立ち(片脚立位)をよく用います。
その時に片足立ちの保持時間だけを見るのではなく、開始の姿勢やバランスの取り方を観察していくと理学療法士として片足立ちを評価することができます。
大事なことはいかに片足立ちの知識を知っているかです。
今回は「片足立ち」に関する論文を読み漁り、良い情報を取り出してみました。
この記事を読むことで片足立ちで見るべきポイントが分かり、的確な評価ができるでしょう。
以前にも片脚立位の記事を書いたので、下記を参考にしてください。
【とりあえず45秒】「片脚立位は何秒できればいいの?」を解決します【あるある】
ちょっと復習
今回の記事で出てくる中殿筋、予測的姿勢制御を復習しておきます。
必要のない方は飛ばしてください
中殿筋とは?
起始:腸骨後面(前殿筋線上)
停止:大転子外側
神経:上殿神経(L4~S1)
作用:股関節外転・内旋/外旋・屈曲/伸展
中殿筋は股関節外転筋群の中で、最大のモーメントアームを有しています。
股関節外転筋群の総断面積の約60%を占めます。
中殿筋は前部・中部・後部に分けられます。
前部・中部は股関節内旋に作用
後部は股関節外旋に作用
股関節内転以外に作用し、外転筋群では総断面積の約60%を占めるため股関節外転運動には重要な筋肉です。
先行随伴性姿勢制御(APA)とは?
来るべき運動に伴って生じるであろう身体動揺(外乱)を無意識に想定して、先行して筋活動が生じ動揺を最小限に抑える姿勢調節のこと。
例えば、立位で右上肢を90°外転したとすると重心が右へ偏移することになります。
この重心偏移を最小限にするために反対側の筋活動が先行して働き重心を反対側にわずかに移動させておくのです。
反対側に移動しておくことで、重心移動を支持基底面の安定性限界内にとどめておけるのです。
こんな研究があります。
ちょうど片足立ちのAPAを研究対象とした文献がありましたので、紹介します。
文献『片脚立ち動作の運動開始メカニズムに関する運動学的解析』
目的
1.健常者で足圧中心(COP)軌跡、筋活動に焦点を当て、APAの観点から運動開始メカニズムについて検証すること。
2.課題開始姿勢を挙上側下肢の荷重率を異なる条件とした際に、APAがどのように働くかを検証する。
対象と方法
対象:視覚および運動機能の障害がない健常男性17名(平均年齢20.8歳、平均身長169.9㎝、平均体重61.6㎏)
方法:右下肢挙上片脚立位の荷重率を被験者体重でそれぞれ通常荷重(Nw)条件(50%)、右荷重(Rtw)条件(65%)、左荷重(Ltw)条件(35%)の3条件とした。
筋電図では左右の脊柱起立筋、大腿直筋、中殿筋、ヒラメ筋の8筋を測定。
各筋の筋活動潜時と、COPの動き始めからピーク値までの移動距離と到達時間の値を1被験者から得られる20回施行を平均化した。
その値を各々被験者数にて一元配置分散分析、多重比較検定(Tukey法)にて条件ごとに検証した。
結果
3条件すべてで有意な差を認めた。
いずれの条件においても右の中殿筋が先行して働き、Nw条件、Ltw条件では左脊柱起立筋、右ヒラメ筋。
Rtw条件では右ヒラメ筋、左脊柱起立筋の順で働いた。
移動距離はピーク値到達時間の各条件の平均値で各条件間に有意な差を認めた。
抄録しか読めなかったのですが、これだけでも面白いと感じました。
この研究から片脚立位を取るためにはAPAとして挙上側の中殿筋、ヒラメ筋、支持側の脊柱起立筋が働くことが分かります。
特に中殿筋がどの条件でも先行して働いており、若い健常者では中殿筋で重心移動をコントロールしていると考えられますね。
高齢者の場合は中殿筋が低下している場合が多く、重心コントロールを別の筋肉で代償している可能性がありそうですね。
この研究だけで想像すると中殿筋が機能低下を起こせば次に先行していた支持側の脊柱起立筋や挙上側のヒラメ筋が働くのかなと考えられますね。
支持側脊柱起立筋が働けば脊柱の伸展と側屈が起こります。
側屈してしまうと頭部が重心線から大きく外れてしまい側方へのコントロールがより必要になるため片脚立位保持はより困難になってしまいます。
そのため、中殿筋の股関節外転作用で骨盤を回転させ、その回転を受け取るために支持側の脊柱起立筋が働いていると考えられますね。
1つの研究からですが、片脚立位をとるためには挙上側の中殿筋が機能して重心をコントロールする必要が分かりました。
注目ポイント1.片脚立ち開始前の挙上側の中殿筋
片足立ちの見るポイントとしては運動開始直前の挙上側中殿筋が機能しているかを評価することが大事です。
外転筋群では総断面積の約60%を占める中殿筋が働かなければ体幹の側屈や股関節屈筋群で代償が起きるはずです。
片脚立ちのAPAとして挙上側の中殿筋が働いて骨盤(股関節)に回転力を出して、重心移動を行っていく必要があるのです。
その結果で開始直後に前額面・矢状面で股関節の屈曲や体幹の側屈が生じている場合は中殿筋の筋力低下や活動量低下が考えられます。
文献『高齢者における片脚立位時間と膝伸展筋力の関係』
目的
下肢筋力水準別に高齢患者の片脚立位時間を測定し、下肢筋力と片脚立位能力の関連について検討。
対象
65歳以上の高齢患者(年齢74.5歳±5.8、身長158.1±8.6㎝、体重48.5±9.6㎏)
男性73例、女性41例 計114例
入院前に屋内歩行自立していた症例を採用
除外対象は筋力低下以外のバランス機能に影響を与える疾病がある場合
右脚のデータで検証
方法
片脚立位の時間は30秒を上限とし、2回測定したうちの最高値を採用した。
CybexⅡ⁺にて膝関節伸展筋力を測定。膝伸展ピークトルクを被験者の体重で除した値を採用
片脚立位時間を5秒、10秒、30秒保持可の3段階に分けた。
膝伸展筋力を0.2Nm/㎏ごとに分割し、各筋力水準間で症例の年齢、身長、体重、片脚立位能力を比較。
結果
5秒間、10秒間、30秒間いずれも筋力水準の低下に伴って、保持ができた症例の割合は減少。
膝伸展筋力が1.20Nm/㎏以上の症例のうち70%以上が10秒または30秒保持できた。
膝伸展筋力が0.40Nm/㎏未満の症例では全症例が保持困難であった。
これは膝関節伸展筋と片足立ちは関連するかの研究ですね。
多くのセラピストは片足立ちには大腿四頭筋の筋力が必要だと根拠なく思っていたのではないのでしょうか。
その通り。大腿四頭筋の筋力は必要なんです。
この研究以外にも片足立ちと膝伸展筋力に関する研究を読みましたが、今のところすべてで相関があるという結果になっています。
しかし、この研究は屋内歩行が自立している高齢者を対象に行ったのですが、自立していても70%しか10秒以上片足立ちを保持することができなかったとも受け取れます。
つまり、30%は屋内歩行自立していても保持困難ということです。
そのため、自立している要素は膝関節伸展筋力以外の要素も考える必要がありそうですね。
注目ポイント2.膝関節伸展筋力の低下が片足立ち保持時間に影響する
片足立ちのポイントその2は膝伸展筋力ですね。
見るべきポイントは片足立ちをする前の評価ですね。
まず、膝伸展に可動域制限が生じていないかを確認しましょう。
なぜなら伸展制限があった場合は保持が難しくなるからです。
膝屈曲位で保持すると、第2仙骨前面から降ろした垂線が身体の重心線だとすると膝屈曲位は重心線上から外れることになります。
重心線から外れる=身体に回転運動が生じる
ため、回転運動を制御するための筋力が必要になります。
つまり、片足立ちを行うのに膝伸展筋力が余計にかかるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
最後に記事のおさらいをしますね。
今回は片足立ちに関する論文を読み、魅力的な論文の紹介と見るポイントをお伝えしました。
- 先行随伴性姿勢制御(APA)により挙上側の中殿筋から働く
- 体幹の側屈や股関節・膝関節の屈曲は中殿筋の活動が不十分な可能性が考えられる。
- 膝伸展筋力の低下が片足立ちの保持時間に影響している。
- 屋内歩行自立している高齢者の30%は片足立ち10秒保持困難である
また魅力的な研究論文や文献があれば紹介します。
参考文献
ぜひ今日から役立ててください。
以上、片足立ちを評価するポイントとは?意外と知らないさりげない悩みでした。