- なぜ中殿筋が立脚期に重要なの?
- 片脚立位ができるとなぜバランスが良いといえるの?
- バイオメカニクスってどう考えればいいの?
上記の悩みを解決する記事を用意しました。前回の記事で片脚立位は中殿筋を鍛えることが大切と書きました。歩行やスポーツの動作において、中殿筋の重要性が問われることがあります。では、なぜ中殿筋が片脚立位に必要なのでしょうか?
今回は、なぜ中殿筋が片脚立位保持に必要なのかをバイオメカニクスの観点から伝えていきます。
バイオメカニクスは、生物の運動や力学に関する研究を行う学問分野であり、スポーツやリハビリテーション、身体活動などさまざまな領域で重要な役割を果たしています。
この記事では、バイオメカニクス上、なぜ片脚立位は中殿筋が重要なのかに焦点を当てて考察していきます。そして、シンプルな中殿筋の筋力強化方法をお伝えします。
今回の内容は学生で勉強する物理学が活躍するので、臨床で物理学を上手く活かせていない人には良いきっかけになるはずです。
結論から言うと、中殿筋は片脚立位時に股関節安定のために重要であり、安定させるためには体重の約2倍の股関節外転筋力が必要です。
バイオメカニクスに基づいた本記事では、中殿筋が片脚立位においてなぜ重要なのかを明確に解説します。
本題の前に復習
今回の内容に出てくる基礎的な内容を確認します。必要のない人は飛ばしてください。
中殿筋の復習
起始:腸骨後面(前殿筋線上)
停止:大転子外側
神経:上殿神経(L4~S1)
作用:股関節外転・内旋/外旋・屈曲/伸展
- 中殿筋は股関節外転筋群の中で、最大のモーメントアームを有しています。
- 股関節外転筋群の総断面積の約60%を占めます。
- 中殿筋は前部・中部・後部に分けられます。
- 前部・中部は股関節内旋に作用します。
- 後部は股関節外旋に作用します。
トレンデレンブルグ(Trendelenburg)徴候
股関節脱臼や麻痺性疾患で股関節外転筋力が低下すると、患側立脚時に骨盤を水平位に保てなくなります。
骨盤は遊脚側に沈下し、体幹を立脚期に振ってバランスを保ちます。これをトレンデレンブルグ徴候陽性といいます。
外見上は肩を患側に落として歩く異常歩行(跛行)となり、これをトレンデレンブルグ歩行といいます。
中殿筋は股関節内転以外に作用し、外転筋群では総断面積の約60%を占めるため股関節外転運動には重要な筋肉となります。
立位の理想アライメントの復習
基本的立位姿勢の理想的なアライメントを確認します。理想的なアライメントに近づけることで姿勢保持のエネルギー消費を減らすことが出来ます。
左右方向のアライメント
- 後頭隆起
- 椎骨棘突起
- 殿裂
- 両膝関節内側の間の中心
- 両内果の間の中心
前後方向のアライメント
- 乳様突起(耳垂のやや前方)
- 肩峰(肩関節前方)
- 大転子(ときにやや後方)
- 膝関節中心のやや前方
- 外果の前方(足関節のやや前方、外果の5~6㎝前方)
物理学の復習
モーメント(トルク)
物体に力を加えたとき、ある軸を中心としてその物体が回転した場合、その回転させる力をモーメント(トルク)と呼びます。後で下記の計算式を用います。
力のモーメントの求め方は
M(モーメント)=F(力)×a(距離)
テコの原理
●第1のテコ
力点―支点―作用点
特徴としてバランスをとります。
●第2のテコ
支点―作用点―力点
特徴として小さな力で重いものを動かします。
●第3のテコ
支点―力点―作用点
特徴として大きな力で早く動かします。
今回は第1のテコが片脚立位保持に関わってきます。
本題:片脚立位時の中殿筋の役割
骨盤は骨頭を支点としたシーソーに似ています。そのため、股関節外転筋力(主に中殿筋)と体重は、支持側大腿骨頭上でバランスを保つのに対抗する力として作用します(第1のてこ)。
シーソーがつりあっているときは、外転筋によって生じる半時計周りモーメント(内的トルク)と体重によって生じる時計回りモーメント(外的トルク)が等しくなっています。
つまり、
内的トルク=外的トルク
でつりあい、片脚立位を保てていることになります。
そして、片脚立位時の支持側股関節の体重と筋力がバランス(つりあい)を保つためには股関節外転筋は体重の約2倍の筋力が必要となります。
60キロの体重の人で例を挙げます。
作用点(重心)は48キロ(一側下肢は総体重の約20%なため体重の80%)
作用点と支点の距離を6㎝、力点と支点の距離を3㎝とします。
片脚立位保持は釣り合っていなければならないので力点=作用点にならなければいけません。
力のモーメントの求め方は
モーメント(Nm)=力の大きさ(ここではkg)×距離(㎝)
です。
したがって、
X(kg)×3(㎝)=480(kg)×6(㎝)となり X=960㎏ となります。
つまり、てこの原理で考えると片脚立位時は支持側下肢を除いた体重の約2倍の股関節外転筋力が必要となります。
上記の例題で股関節外転筋力が体重の約2倍必要であることが分かりました。そして、「復習」の項目で中殿筋は股関節外転筋群の総断面積の60%を占めていると書きました。
そのため、中殿筋の筋力低下が起きると支持側の股関節を安定できず、片脚立位を保持できなくなるのです。
中殿筋を鍛える3つの方法
片脚立位保持能力が日常生活でどう関わっているのかは以前に記事にしました。
この記事では片脚立位はバランス評価の1つであり立位動作全てに関わるとまとめました。つまり、片脚立位保持できないと転倒のリスクが高くなります。
今回の記事から股関節外転筋の筋力が重要であることが分かりました。そのため、股関節外転筋群の筋力を評価しましょう。教科書通りの評価は徒手筋力検査(MMT)で行います。
しかし、MMTでの検査はOKC(開放的運動連鎖)での評価であり、片脚立位時の中殿筋はCKC(閉鎖的運動連鎖)なため、参考程度の評価になります。
実際は片脚保持時間と片脚保持時の股関節の動作分析から評価をしていきましょう。片脚立位時に支持側の股関節が内転や内・外旋が見られる場合は外転筋力が十分ではなく代償していると考えられます。
分かりやすい中殿筋の強化方法とは?
中殿筋を強化するためには、以下の3つのようなトレーニングが効果的です。
- サイドランジ:片脚を横に踏み出し、膝を90度に曲げた状態から立ち上がる動作を繰り返します。
- サイドステップアップ:低い段差や台に片脚を載せ、脚を曲げた状態から立ち上がる動作を繰り返します。
- ヒップアブダクション:仰向けに寝て、脚を横に開く動作を繰り返します。
また、高齢者でも理解しやすく、指示が入りやすいのは立位での股関節外転運動です。立位が不安定な場合は手すりやテーブルに手をついて行いましょう。注意点としては股関節外転運動時に体幹の側屈や股関節の内・外旋が出ないように指導をします。
終わりに
いかがだったでしょうか。実は前述の例題は国家試験問題に出てきていました。
バイオメカニクスにおいて、片脚立位は多くの日常動作やスポーツにおいて重要な姿勢です。その際に中殿筋の役割はバランスの維持、腰や膝の安定、歩行パターンの改善に大きく寄与します。中殿筋を強化することは、パフォーマンスの向上や怪我の予防にもつながるため、日常生活に取り入れることをおすすめします。
これからも臨床の疑問を記事にしていきたいと思っています。私が疑問を解決することで見てくれたあなたの助けになったら嬉しいです。
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以上、『なぜ中殿筋が片脚立位に必要なのかを考えてみる【バイオメカニクス】』でした。