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理学療法

「降りるときに膝が痛いんです」その時に見るべきポイント

都内の整形外科クリニックで働いている理学療法士のあおかずです。10年の臨床経験でそういえばよく耳にするなと思ったことが以下のことです。

降りるときに膝が痛いんです!

理学療法介入時に階段昇降の練習時や膝に痛みがある人にこんなことを言われたことはありませんか?今回は階段降段時の膝の痛みについて考察した記事を書きました。

降段時の痛みは単純に骨の変形が起きていたり、筋力が不十分というだけではない可能性を考える必要があります。

結論から言うと、変形の影響や主動作筋の筋力低下だけでなく、動作分析から可動域や拮抗筋の問題点、身体の使い方などを把握する必要があります。

この記事の前半では階段昇降のメカニズムを解説し、階段昇降動作の理解を深めましょう。後半では降段時痛が起きる原因と運動療法のアプローチ方法を解説します。最後に症例を一つ紹介します。

この記事を読むことで階段昇降時の膝の問題点を把握できるようになります。具体的に知りたい方はそのまま読み進めましょう。

階段昇降動作のメカニズムを理解しよう

まずはじめに正常な階段昇降を理解しましょう。なぜなら、正常の動作を知っていなければ逸脱している動作を見つけることができないからです。動作分析は正常な動作を覚えることが重要です。今回は私が活用していた基礎運動学から階段昇降動作の解説をしていきます。

階段昇降のメカニズム

階段昇降のメカニズムを簡単に言うならば、

階段の昇段は、主として大腿四頭筋と下腿三頭筋の求心性収縮によって、身体を引き上げ、また押し上げる動作である。一方、降段は同じ筋群の遠心性収縮によって行われ、重力による運動に抗した動作である。

基礎運動学第6版p.403

です。

階段昇降動作の周期

基礎運動学には歩行周期と同様に階段の周期が記載されています。

以下では簡潔に書いていきます。具体的に知りたい場合は上記で挙げた基礎運動学で勉強するか、専門書を買いましょう。

昇段

  1. 立脚期

    体重受容:足底が踏板に接地し、体重を支える

    引き上げ:身体が上前方へ移動する

    前方移動:身体が前方へ移動する

  2. 遊脚相

    足クリアランス:遊脚を上げ、同時に足部は踏段を踏む

    足配置:足を踏板におくため、足を位置決めする

降段

  1. 立脚相

    体重受容:足底が踏板に接地し、体重を支える

    前方移動:身体が前方へ移動する

    制御降下:身体は制御された動作で降下する

  2. 遊脚相

    脚通過:歩行周期分析では、遊脚初期と中期に該当する

    足配置:明日を踏板に置く準備をする

階段昇降も立脚相と遊脚相の比は通常歩行と類似しており、立脚相60%、遊脚相40%。

階段昇降動作を分析してみよう

階段昇降時の主な筋の働きを見ていきましょう。こちらも基礎運動学を参考にさせてもらっています。

  1. 昇段時の筋の働き

    体重受容期:大腿四頭筋、外側広筋、大殿筋、中殿筋、ヒラメ筋が主に働く

    引き上げ期:体重受容期の筋活動がやや減少。前脛骨筋の活動が高まる

    前方移動期:半腱様筋、中殿筋、腓腹筋内側頭、ヒラメ筋の活動が高まる

    足クリアランス期:大腿直筋、前脛骨筋が高まる。半腱様筋の活動は減少

    足配置期:半腱様筋が高まり、徐々に大腿直筋、外側広筋、大殿筋、中殿筋の活動が高まる

  2. 降段時の筋の働き

    脚通過期:大腿直筋、半腱様筋の活動が高まる。ヒラメ筋、前脛骨筋は徐々に減少。

    足配置期:大腿直筋、外側広筋が徐々に高まり、その後、大殿筋、中殿筋、腓腹筋内側頭の活動が高まる

    体重受容期:足配置期の筋がそのまま高まりピークを迎える。前脛骨筋も徐々に働く

    前方移動期:腓腹筋内側頭以外の体重受容期の筋肉の活動は徐々に減少。前脛骨筋の活動が高まる

    制御下降期:大腿直筋、外側広筋、中殿筋、ヒラメ筋の活動が高まり、前脛骨筋は減少

今回は「降りるときに膝が痛い」ことなので、②降段時の筋の働きに注目していきましょう

膝が痛い人の降段時の特徴とは?

階段を降りるときに膝が痛い人はいくつかの特徴があるようです。

いくつかの研究論文を読んでみると、階段降段時に膝が痛い人の体験談と照らし合わせてみると以下の共通点がありました。

  • 大腿四頭筋の筋活動の低下(主に外側広筋、内側広筋)
  • 体重がかかった時の関節の動き方
  • 膝関節内側に大きな負荷

もう少し詳しく見ていきましょう。降段時に膝が痛い人は以下の4つの要因が考えられます。

①(遊脚)脚通過期での大腿四頭筋の働きが低くなっている

足配置期~体重受容期での荷重の衝撃を緩衝する準備ができていない→大腿四頭筋の遠心性収縮が必要な時期

②(立脚)体重受容期に股関節が伸展する

膝関節屈曲角度が小さく、膝関節伸展筋群による遠心性収縮が出現しにくく、制動の役割がほぼ足関節に依存してしまう。

③(立脚後半)制御下降期に膝関節の外反モーメントが大きくなる

②と同様。ただしこちらは遠心性収縮が不十分さを外反モーメントにて代償している。

④(立脚全般)外部膝関節内転モーメント(KAM)が高い

膝関節内側コンパートメントに対する生体力学的負荷がより大きくなる。

正常動作を妨げる要因を見つけ出す

上記のことから階段動作時に膝の痛みが生じる場合は、何らかの原因により正常な階段昇降動作ができなくなっているのです。

理学療法では筋のアンバランスや準備不足、下肢の関節可動域制限と降段時の動作の再学習を解決していく必要があります。以下に改善例とともにアプローチ方法を紹介します。

【紹介】アプローチした改善例

実際に私がアプローチして改善が得られた症例を紹介します。

症例

左変形性膝関節症で降段、正座で左膝の痛みを訴える70代の患者さん

著明な変形は認めてないが、左膝内側裂隙は狭小化

運動習慣はあったがコロナウイルス流行により運動量が激減し、膝痛が出現

降段の前方移動期~制御下降期に膝痛が痛い

階段の動作分析をしてみると左前方移動期~制御下降期で左膝痛が生じていました

痛みの部位は左膝の内側裂隙よりやや下方。昇段は痛みなく行えていました。また、降段時に支持側の膝が外反していました。

以上のことから荷重を制御する遠心性収縮の機能に問題が生じているのではないかと考えました

また、もし問題点が筋力低下だけの場合は昇段時にも痛みや不安感、努力感などの何かしら訴えがあると考えます。

考察

下降に伴う身体制御ができない理由を考えていきます。以下に3つの理由をあげます。解説していきます。

①膝関節の関節可動域制限

大腿四頭筋は膝関節伸展筋であるため、膝の伸展制限が生じていると筋力を発揮しにくくなります。特に内側広筋は大腿四頭筋のなかで膝関節最終伸展域で活躍する筋肉です。

膝関節が屈曲位になってしまうと内側広筋の働きが弱くなり、代償として他の筋に負担がかかります。

②拮抗筋の活動

相反神経抑制の生理学的知識があると理解しやすいです。相反神経抑制とは主動作筋が収縮する際に拮抗筋を収縮させない命令が出されるというような、互いに拮抗し合う筋の活動を抑制するメカニズムのことです。

つまり、相反神経抑制の機能により、膝関節屈曲筋が働いていると、膝関節伸展筋は働きにくくなります。

また、主動作筋と拮抗筋が同時に働く等尺性収縮はバランスに重要ですが、階段降段では話は変わります。なぜなら、階段の降段には膝関節を屈曲する必要があるからです。

そのため、膝関節屈曲筋の求心性収縮、膝関節伸展筋の遠心性収縮が働いていく必要があります。

③痛みの原因

痛みの原因を確認は変形性膝関節症による炎症による痛みか、筋肉や組織の柔軟性の低下が問題なのかを考える必要があります。後者の場合、理学療法で痛みが改善できる可能性があります。

この症例の場合は左膝の内側ハムストリングスと下腿三頭筋内側頭の伸長性の低下があり、膝関節伸展の制限を作っていました。

左の大腿四頭筋を触診・視診してみると内側広筋の萎縮がみられます。そのため、左前方移動期~制御下降期に大腿四頭筋の遠心性収縮が働きにくくなり、内側ハムストリングスでの代償を行っていました。

内側ハムストリングが優位になるため、膝の内側に荷重がかかりやすくなり痛みが生じてしまっていると考えました。

3つのアプローチ

柔軟性・伸張性改善

一番はじめに行ったことは大腿四頭筋を働かせるためにハムストリング・下腿三頭筋の柔軟性・伸張性改善を図ることでした。

多くの患者さんは身体が硬いことは自覚してもどこがどのように硬いのかまでは十分に自覚できていません。

ストレッチにより伸長感、マッサージ(圧痛)による硬結感を覚えてもらうことで身体の硬い部分を自覚してもらいました。

②大腿四頭筋力向上

次に行ったことは膝関節伸展に伴う大腿四頭筋(特に内側広筋)の活動改善を図りました。

アプローチ内容としてはパテラセッティングで大腿四頭筋の収縮を感じてもらいました

③反復した降段動作学習

最後は実際に階段動作での動作再学習です。

はじめは手すりを使い、膝への負担を減らしての動作学習を行いました。

内側ハムストリングスが優位なため、制御下降期に膝が外反してしまっているところを徒手または口頭にて修正しました。

修正後、大腿四頭筋の遠心性収縮を促すためにゆっくり降段してもらいました。

徐々に速度を上げ快適速度まで行い、痛みが減って降段することができるようになりました

まとめ

この記事では「階段降段時の膝の痛み」という臨床でのあるあるを解決できるような解説をしました!

最後に内容をおさらいします。

①降段時の膝の痛む人の特徴

  • 大腿四頭筋の筋活動の低下(主に外側広筋、内側広筋)
  • 体重がかかった時の関節の動き方
  • 膝関節内側に大きな負荷

改善例

③アプローチ内容

行ったことは主に3つ

  • 柔軟性・伸張性改善(ストレッチ・マッサージ)
  • 大腿四頭筋筋力向上(特に内側広筋)
  • 反復した階段動作練習

この記事を読むことで同じ悩みを抱えている人の手掛かりになると思います。

上記のような知識を使えるようになりためには解剖学や運動学などの知識が必要です。もし、勉強が不十分だなと感じているのであれば下記の記事を読むことを勧めします。

以上、「降りるときに膝が痛いんです」その時に見るべきポイント でした。

ABOUT ME
aokazu
理学療法士10年目 整形外科クリニックで理学療法を行ってます。 今まで働いてきて思ったことや感じたことなどを伝えていきます。 私の疑問があなたの疑問を解決できることを目指していきます。