- 片脚立位ってどのくらい保持できればいいの?
- 片脚立位のデータを知りたい!
上記の悩みを解決する記事を書きました。片脚立位はバランスの検査項目で、シンプルなため評価としてよく使います。また、片脚立位は体幹の安定性を鍛える良いトレーニングです。
片脚立位の検査後に患者さんにこう聞かれた経験がありませんか?
「(片足立ちは)何秒くらいできればいいんですか?」
この質問に対してあなたはどう答えていますか?根拠がわからず、適当に答えていた人もいるのではないでしょうか?
片脚立位は効果的なエクササイズや評価法ですが、適切な持続時間についての一般的な指針が欠けていることが課題です。若者から高齢者まで、どれくらいの時間が目標として設定されるべきなのか、明確な情報が必要とされています。
この記事では片脚立位の理想の保持時間とそのデータをまとめました。理由だけ知りたい方は目次の「【結果】60歳未満は閉眼片脚立位で30秒、60歳以上は開眼片脚立位で45秒保つ」まで飛んでください。
結論から言うと、若年者は閉眼片脚立位で30秒以上、60歳以上は開眼片脚立位で45秒保持を目指しましょう。それではみていきましょう。
この記事を読むことで片脚立位の適切な持続時間について明確なガイドラインが得られるので、患者さんや利用者に説明しやすくなります。
各年代別の平均値を知る
片脚立位は、体幹の安定性や下半身の筋力を鍛えるのに効果的なエクササイズとして広く知られています。しかし、年齢によって体力やバランス感覚に違いがあることは明らかです。そこで、年代別に片脚立位の平均持続時間について調査し、各年代別の平均値を知りましょう。
日本整形外科学会
日本整形外科学会のホームページでは2つの研究がありました。1つ目は65歳以上の開眼片脚立位時間の平均です。
加齢により下肢筋力、バランス能力は低下します。
地域在住の高齢者977名による体力測定(埼玉医大、坂田2007)調査における開眼片脚起立時間は、65歳代では平均44秒、70歳代31秒、75歳代21秒、80歳代11秒でした。75歳代での転倒群平均は男18.4秒女16.8秒で、非転倒群男23.9秒女24.6秒と有意の差がありました。
運動器不安定症と診断される15秒というカットオフ値は、坂田の調査結果に当てはめるとほぼ75歳代の転倒群に相当する数値でした。
日本整形外科学会
元気な高齢者でも80歳代ともなると平均11秒しか保持できなくなることが分かりました。平均なので、10秒以上保持できる人もいれば5秒以下の人もいると思います。
また、「高齢者」という括りにしてしまうと、65歳と80歳代が一緒になってしまいますが、上記の研究結果から65歳と80歳代では平均で20秒の差があるので注意が必要です。そのため、検査対象者の年齢を考慮して保持時間を評価する必要があります。
2つ目の研究では15秒未満の割合を年代別で見ています。
コツコツウォーク2006と名付けられた健康のためのウォーキング活動に集まった671名では、開眼片脚起立時間15秒未満の者は、10歳代5.2%、20歳代5.9%、30歳代10.4%、40歳代7.6%、50歳代9.9%、60歳代12.8%、70歳代26.8%、80歳代55.0%でした。50歳代までは15秒立っていられない者は概ね10%以下で、加齢の影響はほとんど見られませんが、60歳代からは確実に頻度が増してきます。
一方、この活動への参加者は健康に留意している比較的元気な者であると考えられますが、30歳代でも10%の者が15秒未満であった事は、意外な事実と言えるでしょう。
日本整形外科学会
10歳~80歳代までの幅広い年代の人たちが片脚立位をとって15秒未満であった割合が記載されています。
上記にあるように50歳代までは15秒保つことが出来ない割合は10%程度でしたが、60歳代からは増加傾向です。そして、80歳代では半数以上が保持できない結果になっています。
上記2つの研究結果では60歳代からが明らかな保持能力低下が表れ始めているという結果になっています。
体力測定の年齢階級別基準値
60代からはウェブ上でこのような体力測定の年齢階級別基準値(PDF)を見つけられました。握力やステッピング、5m歩行など他の項目も男女別になっていてとてもわかりやすいものになっています。
自分が平均より高いか低いかを一目で確認できるため、説明を分かりやすくするためにも知っておくと便利です。
日本アスレティックトレーニング学会誌
こちらは閉眼片脚立位の保持時間を各年代別に出した研究です。10代や20代の開眼片脚立位の研究がなかったため、閉眼片脚立位での研究を参考にします。
筆者らの研究チームで行っている幅広い年齢層で実施している体力テストの項目から,閉眼片脚起立保持時間をピックアップした.
期間は2018 年10 月〜2019 年4月の6 か月間とした.対象は,運動習慣の有無にかかわらず,10 代から80 代の健康な男女である.
各年代の閉眼片脚立位時間の平均は,閉眼片脚立位保持時間の上限の設定が60 秒であることに注意を要するが,10 代が33.5±20.2 秒,20 代が42.8±19.2 秒,30 代が42.8±19.8 秒,40 代が30.8±20.8 秒,50 代が25.5±17.4 秒,60 代が15.1±16.8 秒,70 代が6.6±7.7 秒,80代が3.3±2.1 秒であった.
日本アスレティックトレーニング学会誌 第5 巻 第2 号 133-139(2020)世代別でのバランス能力の違い 浦辺 幸夫ら
この研究の結果では10代~40代は保持時間に大きな差は見られず、30秒以上は概ね保持できます。しかし、50代からは保持時間の低下がみられ、60代、70代と高齢になるにつれ保持時間が顕著に低下しています。
日本整形外科学会にある研究では70歳代では平均31秒であったのに対し、この研究では6.6±7.7秒しか保てませんでした。視覚情報の有無でバランス能力は大きく変わることもこの2つの研究の結果を見ると分かります。
【結果】60歳未満は閉眼片脚立位で30秒、60歳以上は開眼片脚立位で45秒保つ
上記でいくつかの片脚立位に関する研究とデータを紹介しました。残念ながら、何秒保持できればいいという断定的な結果はありませんでした。
しかし、各年代の平均と保持が15秒未満の割合から数字の変化が見られた50~60歳の数字が要ではないかと思います。
そのため、今回の記事では10歳代~40歳代の閉眼片脚立位の平均と60歳代の開眼片脚立位で平均が目指すべき数字だと考えました。
つまり「60歳未満は閉眼片脚立位で30秒以上、60歳以上は開眼片脚立位で45秒以上保つ」となります。
【おまけ】開眼片脚立位15秒以下で転倒リスクあり【運動器不安定症】
片脚立位は運動器不安定症の診断基準の1つになっています。今回紹介した研究は運動教室に参加できる高齢者に対して行った研究ですが、病院に入院している人にも十分参考になるはずです。
「運動器不安定症」とは骨折や長期臥床による廃用などの運動器疾患により、バランス能力や移動能力が低下し、転倒リスクが高い疾患概念のことです。
運動器不安定症の診断基準の中に「開眼片脚立位15秒以上」があります。そのため、骨折による入院などの患者さんの場合、まずは開眼片脚立位で15秒以上保てるようにして、転倒リスクを減らすことを目指しましょう。
まとめ
以下が今回の記事のまとめになります。
- 50~60歳代で片脚立位保持能力の低下が見られ始める。
- 同じ「高齢者」でも60歳代と80歳代では片脚立位保持能力は大きく変わるため、年代別の平均を知っておく必要がある。
- 閉眼片脚立位では10代~40代では30秒以上保持できている。
- 運動器不安定症の診断基準に「開眼片脚立位15秒以上」という項目がある。
- 運動器不安定症で転倒リスクが高い場合は開眼片脚立位で15秒以上保てるよう目指す。
- 目指すべき数字としては60歳未満は閉眼片脚立位で30秒以上、60歳以上は開眼片脚立位で45秒以上保てること。
いかがだったでしょうか。
過去にも片脚立位の記事を書いたので良ければこちらもご覧ください。
→なぜ中殿筋が片脚立位に必要なのかを考えてみる【バイオメカニクス】